ドッグ ラン

おはようございます
2019年7月22日 月曜日です

まだ明けませんね 梅雨
今日のお話は先週に続き「ありすツーリング2019春」のスピンオフとでも言いましょうか 
ショートストーリーです


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 【 Dog Run 】


走行車線をゆっくり九十キロぐらいで走っているオートバイがいた。
後方から見てるとやたら荷物が多いオートバイなので、
ハーレーか?アメリカンタイプかと思っていたら、
H社のネイキッドタイプのオートバイだった。

追い越しざまに見たけれど、
左右に振り分けた大型サドルバック、
リヤシートの上には大型のパニアタイプのバック、
それに大容量タンクバックと、1週間は楽に旅行できる程の出で立ちだったが
それは分からない。

と言うのは僕も、
タンクバックにサイドバック、リヤシートには大型バックを積んで、
このネイキッドライダーとほどんど変わらないカバン容量で、
行き先は、ありすなんだから友達は
「何が入ってるねん?」もしくは
「ぢゃあ沢山お土産お願いね」なんて言うに違いない。


このあとサービスエリア入った
二輪用駐輪場には先客が一台だけ、
ハーレーのスポーツスターだった。

隣に僕もオートバイを入れる。
サイドスタンドを蹴り出し車体を左に預ける。
イグニッションキーを左に回しエンジンを停止させる。

「ふう〜!」

次にグローブを外しメーターの上に置くと
車体と僕との間に繋がっているiPhoneの充電ケーブルを切り離し
おもむろにオートバイから降り立つ。

ぐるっと後ろを見回し、顎紐のDリングを解放するとヘルメットを外した。
ヘルメットは右のハンドルバーに通すように引っ掛ける。
先ほど無造作に置いたグローブが飛んでいかない様にメーターの隙間に差し込み直す。

「ほっ!」

ここまでの一連の動作を終えると改めて周囲を見回す。
向こうからモスグリーンのパンツにチャコールのジャケット姿の女性が歩いてくるのが見える。
直感で隣のスポーツスターの持ち主だと思った。

案の定、彼女は隣まで来ると軽く会釈をして、
ジャケットの右ポケットからスポーツスターのキーを取り出すと出発準備に取りかかった。

別に下心があるわけでもないが、
なんとなく彼女の仕草をみていると、やけに足元に目が行くのは何故だろう?

わかった!
なるほどブーツがやけに綺麗なんだ。
キャメルカラーのエンジニアブーツ、
よく見かけるがどこの銘柄かは分からない、分かるのは新しいシューズだと言うこと。
たった今、商品棚からおろしてきたって言われたとしても僕は信じるだろう。

視線を隣のスポーツスターに向けると、
リヤシート横に付けてあるサドルバックも真新しいのに気がついた。

えっ? ブーツも新品、サドルバックも?
そういえば着ているジャケットも、
手に持った鷲のマークが入ったヘルメットも新しい。

なに?
ひょっとしたらこのスポーツスターも新車?

ピカピカだけど磨き込んだ輝きと言うのではなく、
まだ空気に触れて間もないと言う光り方だ

「ピッカピカやん!」

「えっ?」

思わず口に出てしまった言葉に、
彼女が反応した。

「いや、新車ですか? このハーレー、なんかバックも新しいし」

「はい、買ったばかりなんです」

「へえ〜 よく見たらジャケットもブーツも新っぽいですね」

「はい、昔乗ってたんですけどね四百ccに、
 それでまた乗りたいと思って どうせなら大型をって思い免許を取ったんです。
 それでみんな新しく揃えちゃいました」

「そうですか、大型は楽しいでしょ また世界が変わって」

「まだ慣らし中ですから 世界が変わるところまでは経験してませんけど、 
 こうしてお話しするって事で言えば 新しい世界に入って来たのかも知れませんね」


そこへ先ほど抜いてきた、大きなバックを積んだH社のネイキッドが入ってきた。
ネイキッドライダーは女性のハーレーの向こう側へ停めると、
チラリとこちらを見てヘルメットを脱いだ。

このタイミングで彼女は、こちらに会釈するとヘルメットを頭に乗せ、
グローブをはめると出発準備を整えた。
こうして頭の先から足の先ま、でピカピカの新入生の様なライダーが出来上がった。

スポーツスターにまたがると彼女は、
肩の高さのハンドルを握り車体を起こし、サイドスタンドを蹴り入れると
右側に停まっているネイキッドマシンに気をつけながら、
ハンドルを少し左に切ってオートバイを車道に出した。

ネイキッドライダーはオートバイの後ろ側に立ち、
大きなセンターバックのジッパーを開くと、そこから
なんと、出て来たのは犬だった。


残念ながら僕は犬種に詳しくは無い、
それがシーズーやダックスフンドなんかだったら、
愛くるしい目がこちらを見ているとか、
頭が出てきてしばらくしてお尻が顔を出した、なんて状況説明も出来るし、
いっそ雑種だったらそれなりに表現して終わっていただろう。

しかし出てきた犬は
ほっそりした身体と脚が特徴で、
いかにも高そうで、難しそうな名前が付いてそうな犬だった。

なんとあれは、
荷物入れじゃなく犬を入れるケージなんか?

ハーレーの彼女もそれには驚いたようで、
おそらくネイキッドライダーが後部カバンより荷物を取り出したら、
エンジンをスタートさせようと思っていたのだろう。
イグニッションキーに伸ばした右手が、
そのまま固まった様に動かず、じっと犬の方を見ている。


犬はいたっておとなしく、
慣れているんだろうな、ネイキッドライダーの胸に収まると静かにしている。

ただ、慌てていたのは飼い主の方で、
愛犬を抱えてケージのジッパーを閉じようとするのだが、
片手がふさがっているせいか上手く閉められない様である。

彼女の方も取り出したのが犬だった事に驚いたのと同時に、
スポーツスターのエンジン音で、
逆に驚かしてはかわいそうと判断したのだろう、
伸ばしていた右手をそっとタンクの上に戻した。

僕はぼくで、なり行き上、
彼女が出て行くのを見送ったら携帯のチェックをしようとしていたので、
左手にスマホを握ったまま固まったように立っていた。

そんな空気がなんとなく伝わったのだろうか、
ネイキッドライダーはケージを閉めて早く去ろうとするのだが、
そんな時に限ってケージのジッパーにリード線が挟まり、四苦八苦し出している。

それを見て慌てさせては可愛そうと、
彼女はタンクに置いた右手を微動ださせずに静かに待っているから、
僕もあえて見ようとはせずに、中途半端に持ったスマホに目を落とした。


男性がケージからリード線を外し、
犬を抱えたままドッグランエリアの方へ
移動するのを見届けた彼女は、
今まで固定していた右手を動かしてイグニッションキーを捻る。

そして
グリップに右手を戻すと、優しくセルボタンを押した。




 「ありすツーリング2019春」 ありすのブログ 本編はこちらをどうぞ 👇 

  https://pensionalice.at.webry.info/201906/article_6f19fedace.html#comments







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この記事へのコメント

鈴木富子
2019年07月22日 18:52
すごく良いお話ですね!
喜久治さんもその女性の方も優しい方で犬も驚かされず読んでいて胸がほっこりしました。
きくにい
2020年06月02日 23:00
富子さん
ずいぶん放置してましてごめんなさいね
まあ少しでも気が安まれば何よりです。




>鈴木富子さん
>
>すごく良いお話ですね!
>喜久治さんもその女性の方も優しい方で犬も驚かされず読んでいて胸がほっこりしました。

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